婁正綱(ろうせいこう・ロウセイコウ) Lou Zhenggang

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アーティスト特集:婁正綱(ろうせいこう)  婁正綱の現代作品に捉えられた中国の精神

2020年7月12日 “MADE IN BED”(Sotheby’s Institute of Art, London 出版)に掲載

婁正綱(ろうせいこう) Lou Zhenggang

婁正綱(ろうせいこう) Lou Zhenggang


天才と才能が規律と献身に出会うとき現代作家、婁正綱(ろうせいこう、1966年中国黒龍江省生まれ)の作品に具現化できたと言えよう。中国書画界の奇跡といわれる婁正綱は、中国の視覚芸術の中で最高と見なされている書の彼女の並外れた才能により、3歳の時、天才と認められ、12歳の時、婁正綱は中国では「神童」と呼ばれていた。


Road, 144cm×75cm, Ink on paper, 2009, Lou Zhenggang.

Road, 144cm×75cm, Ink on paper, 2009, Lou Zhenggang.


婁正綱は幼少期、父に書画を学び、12歳から中国近代書法の巨匠から訓練を受け、独自の個性的なスタイルを切り開いた。最初の数年間、婁正綱は書と和紙の水墨画に焦点を当てていたが、その後、西洋の技法を採用し、現代的・個性的な抽象を創造、中国伝統絵画と現代芸術の結合を体現するようになる。

婁正綱は次のように語った。「絵を描くとき節度がとても大切です。特に水墨ではやり直しがきかないからです。」水墨を極めた婁正綱だからこそ、この節度は十分に訓練されているといえよう。「技法は誰でもマスターできるが心が大切、絵は心の声」とする婁正綱の意思は、苦しくそして厳しい修行を経験し強固になった。

また線についても婁正綱は次のように語る。「書を練習していたから線に力を出すことができる、線の中にも存在感を発揮させることができる。これは東洋の書をマスターしなければできないことです。線の存在感が、画面の空気感をより動きのあるものにしているのです」。

これらは「太陽と月」シリーズ(2010)作品にも表現され、同シリーズでは、優雅な曲線と白と黒のバランスが取れた組み合わせ、高度にコントロールされたブラッシュ・ストロークが作品の主な特徴となっている。筆と墨の表現力を強調しながらも、躍動感あふれる作品は、詩と音楽性の重厚感に溢れている。


Sun (Sun & Moon series), 128cm×128cm, mix media, 2010, Lou Zhenggang.

Sun (Sun & Moon series), 128cm×128cm, mix media, 2010, Lou Zhenggang.

Moon (Sun & Moon series), 128cm×128cm, mix media, 2010, Lou Zhenggang.

Moon (Sun & Moon series), 128cm×128cm, mix media, 2010, Lou Zhenggang.


抽象画においては、婁正綱はハーモニー、いわゆる調和と緊張感を組み合わせ、審美的見地からの美しさのみならず、情緒的見地からの感動をもたらしている。偉大な哲学者である孔子やヘラクレイトスの様に、ハーモニーは様々な力の結合と流動的な世界における絶えまないプロセスとして理解されてきた。より具体的には、中国における調和の概念は多元的で、開放的なものである。このような絶え間ない自己革新と緊張感によって、婁正綱の絵画はついに真の調和に向かっている。


Untitled, 130cm×130cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 130cm×130cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.


婁正綱の近年のシリーズ「無題」では、アーティストが創作に注ぎ込んだ純粋なエネルギーと感情表現を感じることができ、驚くべき結果を達成している。婁正綱は、作品を描く力と女性の繊細な感性と感情的な深さを巧みに兼ね備えている。


Untitled, 130cm×130cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 130cm×130cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.


婁正綱の作品の構図は抽象画ではあるが、自然のうつろいや水という要素が主要な役割を果たしていることは容易に想像できる。実際、婁正綱のインスピレーションは伊豆にあるアトリエから見られる壮大な太平洋の大海原、自然の移ろいと活力、色の変化から得ている。海の深さと光との大胆な組み合わせを通じて、婁正綱の絵画はしばしば自然の写真的なミメーシスに達し、絵を見る人々の思いをひと時に留まらせ、その景色を想像し感じさせることができるのだ。


Untitled, 130cm×130cm, Acrylic  on canvas, 2018, Lou Zhenggang

Untitled, 130cm×130cm, Acrylic on canvas, 2018, Lou Zhenggang

Untitled, 162cm×130cm, Acrylic on canvas, 2018, Lou Zhenggang

Untitled, 162cm×130cm, Acrylic on canvas, 2018, Lou Zhenggang


婁正綱は、色彩、材料、様々な技法とその関係について長年にわたり探求し、その技法の深みと技巧の豊かさが、作品の中に、特に大型の作品の中にみられる。婁正綱は、墨、油とアクリル顔料を組み合わせ、書と絵、具象と抽象を結びつけた。特に墨の流動性とアクリル絵具の厚みを絶妙にコントロールする技法は大変興味深い。


Untitled, 145cm ×145cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 145cm ×145cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 130cm×130cm, Acrylic  on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 130cm×130cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.


婁正綱の意思は、固定されたスタイルに固執することなく、中国の芸術的伝統の根底にある枠組みに挑戦し、芸術的な可能性を広げ続けるところにある。婁正綱は、アンフォルメル(抽象表現主義)の芸術運動に深く影響され、中国系フランス人画家の趙無極氏(1921-2013)の作品の影響をも受けた。趙無極氏の作品はモダニズムの抽象化と中国の絵画を組み合わせ、西洋とアジアの伝統の境界に挑戦した。婁正綱は、抽象表現主義の表現にさらに中国芸術の技巧を加え、現代中国美術に新しい道を切り開いたといえよう。


Untitled, 130cm×97cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 130cm×97cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, Acrylic on canvas, 162cm x 130cm, 2018, Lou Zhenggang.

Untitled, Acrylic on canvas, 162cm x 130cm, 2018, Lou Zhenggang.


婁正綱の芸術世界は非常に幅広く、様々な芸術の伝統を融合させながら多様性を取り入れ、深み、意味、そして吸い込まれそうな美しさを特徴とする現代の作品が生まれることを示唆している。だからこそ、婁正綱がアジアで最も著名な現代中国の芸術家の一人として、国際的な現代美術の世界での地位を占めている理由である。

Untitled, 130cm×97cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, 130cm×97cm, Acrylic on canvas, 2019, Lou Zhenggang.

Untitled, Acrylic on canvas, 162cm x 130cm, 2018, Lou Zhenggang.

Untitled, Acrylic on canvas, 162cm x 130cm, 2018, Lou Zhenggang.


過去30年間、婁正綱は中国、日本、アメリカで27回の個展と3回の巡回ツアーを開催している。最近の展覧会には、2020年に東京のホワイトストーンギャラリーで開催した「若き巨匠・婁正綱の世界展 ―コンテンポラリーアートとして華開く宋元の絵画―」展、同年のパリ、ロンドンとチューリッヒで開催された「婁正綱×ラリック(LALIQUE)」のコラボレーションシリーズ「太陽と月」個展、2019年に軽井沢ニューアートミュージアムにおける「今、世界で評価され続けるアジア人の芸術家」展、2018年に東京の「婁正綱作品展-未夢-」展等が含まれている。

婁正綱の絵画作品は、中国国家博物館(北京)、CEDF(中国教育発展基金会)、LACMA(ロサンゼルスカウンティ美術館)等、重要な美術館の永久収蔵品として収蔵されている。

東京、香港、台北、軽井沢にあるホワイトストーンギャラリーが婁正綱の個展を行う。

Andriani Raouna,
Guest Contributor, MADE IN BED
https://www.madeinbed.co.uk/features

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